1. ある日、13歳の少年が見つけた“積分クラゲ”
2020年代初頭、和歌山県・田辺湾のとある桟橋で、不思議なクラゲをすくいあげたのは――
なんと、当時13歳の少年・杉本凌哉さん。
最初は「ちょっと変わったクラゲかな」と思って自宅で飼育していたところ、日を追うごとにその姿は変わっていきます。
- 体はほとんど透明
- 傘の中に、積分記号のような曲線を描く謎の模様
- フリルのように広がる口器
- 触手の本数が不定で、時によって増減する…
「これは普通のクラゲじゃない」と思った杉本さんは、その後、学術機関や海外のクラゲ専門家との連携により、この生物が世界で初めて記録される新種だと明らかにしていきます。
2. 名前は“インテグラルクラゲ”
そのクラゲの学名は――
Orchistoma integrale(オルキストマ・インテグラーレ)
和名では通称「インテグラルクラゲ」「インテグラルジェリー」とも呼ばれています。
命名の由来は、その“積分記号”のような特徴的な模様から。
英語でも「integral jellyfish」と紹介されることが多く、海外メディアでもその形のユニークさが話題になりました。

画像:Ryoya Sugimoto(杉本凌哉), via NOAA Fisheries
出典:Meet the Integral Jellyfish – NOAA Fisheries
3. 美しいだけじゃない? エビをも殺せる毒性
このクラゲ、実は見た目に反して軽く触れてしまうと危険な一面も持っています。
- **触手には刺胞(しほう)**と呼ばれる毒針のような細胞があり、
- 実験では小エビを一撃でマヒさせて捕食する姿も観察されています。
ただし――
2025年8月現在、人間に対する明確な被害報告はありません。
とはいえ、毒の構成成分はまだ完全には解明されておらず、「毒性が強い可能性は否定できない」として、
研究者たちは引き続き警戒と観察を続けています。
4. 進化系クラゲ? 奇妙な構造だらけ
インテグラルクラゲの特徴は、ただ“美しい”だけではありません。むしろ進化の迷宮を歩いてきたような構造が詰まっています。
| 特徴 | 解説 |
|---|---|
| 傘の模様 | 積分記号のような曲線 → 生殖腺 |
| 口器 | フリル状に広がる“ひだ”のような構造 |
| 触手 | 本数が固定されておらず、日によって変わることも |
| 光の透過性 | ほぼ完全に透明 → 内部器官も透けて見える |
また、成長段階で大きく形が変わっていくことも特徴で、杉本さんの飼育日誌には「毎日形が違っていた」という記述もあります。
5. どうやって見つかったのか?
実はこのクラゲ、最初はネットやSNSで騒がれたわけではありません。
あくまで、ひとりの中学生が水辺で興味を持ち、研究を進めた結果、専門家たちの協力で正式に学術誌に掲載され、新種として記録されたのです。
- 研究論文:『Plankton & Benthos Research』(日本プランクトン学会誌)
- 論文タイトル:A new species of the genus Orchistoma from the Northwest Pacific
この経緯から、杉本さんは「若き研究者」「未来のクラゲ博士」としても一躍有名になりました。
6. 【考察①】なぜ“透明なクラゲ”に人は魅せられるのか?
ここからは考察パートです。
インテグラルクラゲのような**“意味不明だけど美しい”存在**は、なぜ人々の心をつかむのでしょうか?
その答えの一部は、**「パレイドリア現象(意味のない形に意味を見出す認知)」**にあります。
私たちの脳は、
- 雲が動物に見えたり、
- 木目が顔に見えたりするように、
意味のない形に“何か”を見出すクセがあります。
積分記号のような模様や、フリル状のひだは、「何かメッセージがある」と錯覚させてしまうのです。
7. 【考察②】なぜ今“クラゲ”がバズるのか?
近年、“クラゲ”が妙に人気です。
- 水族館でのクラゲ展示は観覧者数を引き上げ、SNS投稿がバズりやすい
- クラゲモチーフのアクセサリーや雑貨もじわじわブーム
- ドラマやMVでも、クラゲの浮遊する映像が“癒し”や“幻想”の象徴として使われています
では、なぜクラゲ?
それは、クラゲが「解釈の余白」を大量に含んだ存在だからです。
- 明確な表情もない
- 骨格もなく、人間的な構造とはかけ離れている
- でも、漂う・光る・透ける・丸い…
つまり、「自分の感情を重ねやすいスクリーン」として、
人々が勝手に“意味”や“感情”を投影できる対象なのです。
そしてインテグラルクラゲは、その極致。
- 積分記号(知的・数式)
- 透明(消えそうな存在)
- 不定形(決めつけられない)
すべてが、現代人の“解釈癖”にフィットする構造を持っているんですね。
8. 【考察③】ネット時代と海洋生物の親和性
SNSで注目されやすい自然の存在には、いくつかの共通点があります。
- 一見して意味不明
- 美しさと怖さが同居
- 人間の尺度で測れない
- 名前が面白い or 読みにくい(覚えにくさ=拡散力)
インテグラルクラゲはそれらすべてを満たしています。
さらに、クラゲは“動いてるだけで映像映え”する存在。
- 暗い水槽でスポットを浴びるだけで神秘的に見える
- ゆらゆら動くだけでリズムが生まれる
- 情報が少ないからこそ、創作意欲も刺激される
結果的に、TikTok・YouTube・Instagramなどで“黙ってても目を引く存在”となり、アルゴリズム的にも優位になりやすいのです。
9. もし見つけたらどうする? 対処の基本
インテグラルクラゲは、今のところ人間への被害報告はないとはいえ、毒性のあるクラゲです。
もし海で似たような生き物を見つけたら:
- 絶対に素手で触れないこと(見た目に反して刺胞があります)
- 近づいて撮影する場合も水中カメラ越しに
- もし刺されたら、すぐに酢で洗い、45℃前後の温水で温める
- 症状が続く場合は速やかに医療機関へ(救命が必要な場合もあり)
クラゲによる刺傷は、思っている以上に重篤になるケースもあります。
“美しい”のは、距離を守るからこそ、です。
10. おわりに:意味と名前を与えたのは人間だ
インテグラルクラゲ――
それは、クラゲに詳しい研究者ですら初めて見た形であり、
13歳の少年が世界に“発見”を届けた新種です。
でも、名前をつけて、“意味を与えた”のは人間の側。
- 積分クラゲという名前
- 知的に見える形
- 美しさと危険の間にある矛盾
すべて、私たちがそう感じたから生まれた物語です。
クラゲそのものは、ただ、そこに“いる”だけ。
だけど、それを物語に変えるのが人間。
インテグラルクラゲは、
その「人間の物語を受け止めてくれる鏡」みたいな存在かもしれません。
🎯まとめ:インテグラルクラゲの全体像
- 13歳の少年によって和歌山で発見されたクラゲの新種
- 名前は“積分記号”のような構造から「インテグラルクラゲ」
- エビを殺せる毒性あり/人間への影響は未確認
- 学術誌で正式記載され、世界的にも注目
- 見た目と意味の“ズレ”が、現代的なバズ要素を持っている
