◆ ルールの隙をついた“静かな迷惑行為”が社会問題に
「相席ブロック」という言葉をご存じでしょうか。
高速バスや新幹線の予約において、隣の座席を一時的に押さえておいて、直前にキャンセルすることで隣に誰も来ないようにする行為のことを指します。
一見、他人に迷惑をかけているようには見えないこの“裏技”が、近年急速に社会問題化しています。
なぜ今、これが問題視されるようになったのか?
そして、どこまでが許容され、どこからが“悪質”とされるのか?
法的観点や制度上の穴、実際のユーザー体験までを紐解きながら、分かりやすく解説していきます。
◆ 背景:なぜ「相席ブロック」が可能になってしまったのか?
◯ 高速バスの座席予約システムの盲点
この問題の根本には、**予約からキャンセルまでの“仕組みの甘さ”**があります。
多くの高速バスでは、Web上で手軽に座席を指定して2席分を予約できます。
さらに、出発の数時間前までであれば、キャンセル料は運賃の20%程度、場合によっては110円というケースもあります。
つまり──
「1人分の運賃+数百円」で、隣に誰もいない快適な移動空間を買えてしまう。
このようなシステムの隙を利用し、「横の席をブロックしてしまおう」と考える人が現れたわけです。
◆ 実際に何が起きているのか?ユーザーと業界の声
🎟 弁護士の見解:「業務妨害に該当する可能性もある」
山田真也弁護士は、「相席ブロック」は以下のような法律上のリスクを含むと指摘しています。
- 不法行為責任(民法709条):本来利用しないことを前提に席を押さえ、事業者に損害を与えている
- 偽計業務妨害罪(刑法233条):虚偽の申し込みを通じて業務に支障を与えたと判断されれば、刑事罰もあり得る
つまり、ただのズルではなく**「場合によっては犯罪になりうる」行為**であることが分かります。
🚍 バス会社の対応:キャンセル料制度の見直しへ
JRバス関東などの大手バス会社は、2024年春から「相席ブロック」対策として以下のような制度改善に踏み切りました。
- 出発2時間前以降のキャンセル料を全額支払いに
- 同一アカウントからの連続キャンセルをシステム的に制限
- 座席指定画面に「1人での複数予約は禁止です」と明記
SNSで「性善説では限界」と公言し、明確な姿勢を打ち出した点も話題を呼びました。
🧍♂️ 個人の声:「やってみたいけど、罪悪感もある」
あるブログでは、実際に映画館やバスで隣の大柄な男性と相席になってしまい「本当に地獄だった」と書かれています。
その経験から、「相席ブロックも気持ちはわかる…でも、罪だよな」と揺れる気持ちが描かれていました。
また、SNS上でも…
- 「そんな発想あったか…やろうと思えばできちゃうの怖い」
- 「ルールの抜け穴だよね。でも他の人が乗れなかったら…」
- 「やってる人に出くわした。席が空いててびっくりした」
といった声が相次いでいます。
🛑 その陰で困っている人たちも
「直前キャンセルによって、乗りたかった人が席を取れなかった」
「運営側は満席表示でチャンスを逃した」
という形で、直接的な被害者が出ることもあります。
特に繁忙期(お盆・年末年始・連休)は、こうしたブロックが1席単位で深刻な影響を及ぼすのです。
◆ 中間まとめ:ここまでのポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 行為の概要 | 2席予約→出発直前に片方キャンセル→隣が空席に |
| 背景の構造 | キャンセル料が安く、システムが性善説 |
| 実際の影響 | 他の利用者や運営への損害が発生 |
| 法的リスク | 民法・刑法で処罰の可能性あり |
| 社会の反応 | SNSで共感もあるが、非難と懸念が強まっている |
◆ なぜ「共感」されてしまうのか?
「誰にも隣に座ってほしくない」──そう思ったことは誰しも一度はあるでしょう。
- 密着する座席が苦手
- 体臭や音、マナーの悪さに悩まされた経験がある
- 自分だけは“静かに過ごしたい”と思ってしまう
相席ブロックという行為に、共感が集まりやすいのは、こうした**“静かな本音”に訴える構造**を持っているからです。
そして、「少しズルだけど、バレないし、誰にも迷惑かけてないように見える」──
この“グレーな自己合理化”が、多くの人の中に入り込む余地を作っているのです。
◆ 制度と倫理のズレ
制度上の“穴”があるからといって、その行為が正当化されるわけではありません。
- 予約は“利用する意思”があって初めて成り立つ
- キャンセル自由=モラルフリーではない
- 公共交通の座席は「自分だけのもの」ではなく「社会資源」
という原則を忘れてしまうと、制度は一部の“ズル賢さ”に弱い設計となり、結果として善良な利用者が損をする仕組みになってしまいます。
◆ 社会は「性善説」で設計されている
JRバス関東の「性善説では限界」という発言が象徴的ですが、多くのサービスは本来、
- 利用者は誠実である
- 不正は例外的に発生する
- 誰もが平等に扱われるべきだ
という前提で作られています。
そこに、相席ブロックのような「制度を逆手に取る行為」が常態化してしまうと、システム側も“性悪説”ベースの設計へと移行せざるを得ません。
その結果──
- キャンセル料が高くなる
- システムが複雑になる
- 信頼ベースの簡便さが失われる
という形で、全体のユーザー体験が損なわれてしまうのです。
◆ テクノロジーと倫理の協調が必要な時代へ
解決策としては、単に「罰則強化」や「監視強化」だけではなく、**倫理設計(ethics by design)**の視点が重要になります。
たとえば──
- キャンセル料金を段階的に自動設定(出発時間に応じて変動)
- 不自然なキャンセルパターンをAIがフラグ検知し、警告表示
- 座席予約時に「公共性の遵守」にチェックを入れさせるUI設計
といった、「悪用しづらく、守りたくなる仕組み」をテクノロジーと倫理で同時に育てていく必要があります。
◆ 便利の裏には、見えない責任がある
「相席ブロック」は、一人ひとりが自分の快適さを求めた結果にすぎません。
しかし、それが積み重なることで、
- 誰かの乗車機会を奪い
- 運営側に損害を与え
- サービス全体の信頼性を壊していく
という**“静かな破壊”**を引き起こしてしまうのです。
便利さの陰には、常に他者との見えない接点があり、
社会の“共有資源”を使う場面では、見えない責任も伴います。
📝 まとめ:この問題から考える「これからのマナー」
| 観点 | 考えるべきこと |
|---|---|
| 利用者側 | モラルと制度のギャップを自覚する |
| 事業者側 | 性善説を前提としつつも“設計の強化”を進める |
| 社会全体 | 「ズルの容認」が信頼の崩壊を招くという構造を理解する |
