■ 結論:「減塩がつらい」を変える、新しい“味わい方”
食事制限や高血圧対策のために「減塩」を勧められても、
「どうしても物足りない」「味気ない料理がつらい」
そんな思いを抱えたことのある人は少なくないはずです。
そんな中、「塩を使わずに塩味を強く感じさせる」
まるで魔法のようなスプーンやお椀が登場しました。
その名も、エレキソルト。
これは、微弱な電流を舌に伝えることで味覚を“錯覚”させるという電気味覚技術を応用した製品です。
しかもただのガジェットではありません。
開発者自身が減塩生活に苦しんだ体験から、「本当に困っている人」の声に応えるために生まれたという背景があります。
■ 背景:「減塩」が“続かない”心理とは?
高血圧や腎臓病、心疾患のリスクを下げるために減塩は効果的ですが、実際に続けるのは難しいと感じている人が大多数です。
なぜ減塩はつらいのか?
- 味の満足感が下がる
→「うす味=おいしくない」という印象を抱きやすい - 努力をしても成果が見えにくい
→ 数値変化が即座に実感できず、モチベーションが続かない - 料理や食事が“苦行”になる
→ 食の楽しみが減り、心理的なストレスに
実際、エレキソルトの開発元・キリンHDは、
「患者さんに減塩を指導しても、味が物足りなくて続かない」という現場の声を受けてプロジェクトを始めたと語っています。
■ 製品の仕組み:塩を使わずに“塩味”を感じる理由
エレキソルトの仕組みは非常にユニークです。
- スプーンやお椀の金属部分に微弱な電流を流す
- 口に入れることで、舌のナトリウムイオン感受性を一時的に変化させる
- その結果、実際の塩分が少なくても「しょっぱく」感じる
宮下芳明教授(明治大学)の研究によると、
この技術を使うことで、塩味が平均で1.5倍近く強く感じられることが実証されています。
また、東京都市大学の中村裕美准教授の研究でも、電流の極性や方向によって味覚が変化するという事実が確認されています。
■ 実体験①:Gizmodoライターの驚き
Gizmodoの試食レポートでは、塩分ゼロのバターチキンカレーを通常スプーンで食べたあと、エレキソルトスプーンで食べ比べたところ──
「味の輪郭が一気に浮き上がった」「まるで出汁が加わったようなコクと酸味を感じた」
とのコメント。しかも電流のビリビリ感などはまったくなく、“自然な味変”のように感じられたといいます。
つまり、味そのものは変えていないのに、感覚だけが変わる。
それがこのスプーンの“錯覚を味方につけた”ポイントです。
■ 実体験②:購入者の声とSNS反応
- 「減塩生活で何年も味に飢えてたけど、これなら頑張れる気がする」
- 「うちの母が食事制限中で使ってます。嬉しそうに食べてくれて泣いた」
- 「まさか“電気”で味が変わる時代が来るとは」
こうした反応の多くに共通するのは、**“味わうことの喜びが戻ってきた”**という心の動きです。
これは単なる便利アイテムではなく、生活の質(QOL)を取り戻すツールとして捉えられ始めています。
■ 技術だけじゃない、“気持ち”を動かす商品づくり
エレキソルト開発の中心にいた宮下教授は、「開発者自身が減塩生活をして、初めて“味がなくて苦しい”ということを知った」と語っています。
つまりこの商品は、「研究者の知見×ユーザーの痛み」から生まれた技術。
そこには、
- 「続かない減塩」
- 「健康とおいしさのジレンマ」
- 「罪悪感を抱えた食事」
──といった心の問題に、やさしく寄り添おうとする姿勢があります。
■ 考察①:「制限されること」が与える心理ストレス
減塩生活をする人がまず直面するのは、「健康のために仕方ない」と頭ではわかっていても、「満たされない食事」による心理的ストレスです。
人間にとって「味覚」は単なる栄養摂取の手段ではありません。
それは、
- 家族との団らん
- 旅行の思い出
- 誰かとのつながり
- 自分をいたわる時間
──つまり感情や記憶と強く結びついたものです。
だからこそ、「味を制限される」ことは、
ただの“食事制限”ではなく、楽しみ・自由・自尊心が削られるような感覚につながってしまうのです。
■ 考察②:味覚の“錯覚”は、倫理か技術か
エレキソルトは、電気という“人工的な手段”で味を変化させます。
これに対して、「本物の塩味じゃないのに…」と戸惑いを感じる声があるのも事実です。
しかし考えてみてください。
もともと「味覚」そのものが生理的な錯覚とも言えます。
たとえば:
- コショウの刺激で辛味を感じる
- 出汁のうま味で塩分が控えめでも満足できる
- 食感や温度によって味の印象が変わる
つまり、“錯覚をうまく使う”ことは、
人間の味覚の本質に沿ったアプローチだとも言えるのです。
倫理というより、“どのように使うか”が大切なのかもしれません。
■ 改善と工夫:日常に溶け込ませるために
1. 「味覚の学習」と組み合わせる
エレキソルトを導入したからといって、すべての人がすぐに満足できるわけではありません。
特に「濃い味」に慣れている人には、味覚のリセットが必要です。
→ 少しずつ減塩に慣れ、エレキソルトの効果が“補強”として働くようにする導入が理想です。
2. 家族や介護と組み合わせる
実はエレキソルトの導入が特に効果的なのは、高齢者や介護食の領域。
家族で食卓を囲むとき、「母だけ味が薄い」ではなく、「みんなが同じ料理を楽しめる」ことに意味があります。
→ 食事の“分断”をなくし、“共に食べる”ことを再び取り戻せる可能性があるのです。
■ 技術の未来:塩味だけでなく「幸福感」へ
最新モデルでは、お椀型の「カップ」も登場し、味噌汁やスープにも対応。
電流の強度調整、耐熱性、食洗機対応など、日常使いに配慮した進化も続いています。
さらに宮下教授らは、「うま味」「甘味」「酸味」など、味覚全体を電気で制御するマルチ味覚デバイスの開発にも着手。
将来的には、塩分だけでなく「糖分制限」や「味覚支援による嚥下補助」など、医療・福祉領域との連携が進むことも予想されます。
■ 最後に:おいしさを諦めない社会へ
「健康のために我慢する」
「もう昔みたいに好きなものが食べられない」
そう感じていた人たちが、再び“味わう”喜びに触れること。
それがエレキソルトのもたらす真のインパクトかもしれません。
この技術は、単に「塩味を強くする」のではなく、
**「人間らしい欲求に、やさしく寄り添う道具」**として、生活の中で確かに育ちつつあります。
我慢を強いる減塩から、
工夫で支える減塩へ。
そしてその先に、“おいしい”という感情がまた戻ってくるように──
