■ はじめに:「遺伝で決まる」と諦めていませんか?
運動会や部活で目立つ「足の速い子」。
周囲からはよくこう言われます。
「お父さんが陸上やってたからね」
「体型が全然違うもん」
「もう遺伝でしょ、あれは」
実際、足の速さと遺伝にはどんな関係があるのでしょうか?
遺伝子で決まるなら、努力では越えられない壁がある?
あるいは、練習次第で覆せる領域もある?
この記事では、最新の研究データ・専門家の見解・個人の体験談をもとに、「足の速さはどこまで遺伝するのか?」をわかりやすく解説します。
■ 結論から先に:遺伝は関係するが「すべて」ではない
まず、現在の科学的な共通見解としては以下のように整理されています。
- 足の速さには確かに遺伝的要素がある
- しかし、「速さ=遺伝100%」ではなく、環境や練習の影響も大きい
- 特に小学生〜一般成人レベルでは、トレーニングの方が影響度が高いケースも多い
専門的には、運動能力全体のうち30〜80%が遺伝の影響を受けるとされます(双子研究などによる)
ただし、それが「足の速さ=遺伝で決まりきっている」ことを意味するわけではありません。
■ 遺伝の関与:どんな特徴が“生まれつき”に関係するのか?
1. 筋繊維タイプ(速筋と遅筋)
- 速く動ける「速筋」が多い人ほど、短距離走に有利
- ACTN3遺伝子という有名な遺伝型が関係しており、「R型」や「RX型」は速筋の働きが強いことが多い
👉 ただし、同じ「X型」であっても、日本代表クラスに成長した選手の例もあり、**決定要因ではなく“傾向”**です。
2. 骨格・体型の影響
- 骨盤の角度、脚の長さ、アキレス腱の構造などもスプリントには関与します
- これらはある程度は遺伝的に親子で似やすい
👉 ただし、これも「伸びやすさ」や「得意な動き方」に影響する程度。
フォーム改善や筋トレで補える部分も大きいとされています。
■ 実際の研究:遺伝子が「初速」に影響する可能性
2019年に行われた全ゲノム解析(GWAS)では、スプリントの初動(5m走など)に影響する複数の遺伝子多型が特定されました。
- ただし、その影響は小さく、「この遺伝子がある=必ず速い」わけではない
- むしろ、「伸びやすさ」「習得の早さ」に差が出る程度という結果でした
💡例:速くなるまでに「10回かかる人」と「3回で習得できる人」がいるような感覚に近い
■ 体験談から見える:遺伝を超える変化もある
▶ ブログ投稿(Jeff Chen氏)
- 自分は小柄で非アスリート体型だったが、トレーニングとフォーム改善で大幅に50mのタイムを短縮
- 「限界は感じるが、想像以上に伸びしろがあった」と振り返る
▶ 指導者コラム(柳谷先生)
- 小学生200人の遺伝子と50m走を調査 → 遺伝型と走力に有意な相関はなし
- 速筋型の子が必ずしも速いとは限らず、練習の有無・意欲の差が大きいと報告
■ 速さは「才能」か「練習」か──研究が示す“混合モデル”
前編でもお伝えした通り、
足の速さに影響する要素は大きく分けて以下の2つです。
| 要素 | 代表的な内容 | 遺伝との関係 |
|---|---|---|
| ① 身体的素質 | 速筋比率、脚の長さ、骨盤角度など | 中~強(生まれつき) |
| ② 習得スキル | 姿勢、蹴り方、腕振り、呼吸、集中力など | 弱(後天的) |
特に②の“習得スキル”部分は、練習で大きく変化します。
実際の研究でも、「ACTN3などの遺伝型よりもフォーム修正や地面反力の改善が記録に大きく影響する」例が多数見られています。
■ 専門家が語る:「限界」はあるが“限界まで行っていない人”がほとんど
陸上研究者Haugen氏のレビュー論文では、こう結論づけられています。
「遺伝によって“伸びしろ”の天井はある程度決まる。
しかし、ほとんどの人はその天井にすら届いていない。」
つまり──
- 「限界が高い人」でも練習しなければ意味がない
- 「限界が低そうな人」でも、練習次第で驚くほど速くなる
ということです。
■ 実例:「遺伝的に不利」と言われた人が速くなったケース
▶ ケース1:X型ACTN3タイプでも全国レベルへ
- 某クラブチーム出身者(元々は体力テストB判定)
- ACTN3型は「X/X」=速筋少なめ
- しかし、スタートダッシュを徹底研究し、“0〜10mだけで勝つ”型に進化
- 50m→100m→リレー選手とポジションアップ
→「伸びにくさ」を戦術でカバー
▶ ケース2:大人になってからのタイム改善
- 30代、走るのは苦手だった男性(Reddit投稿)
- スマホ撮影+フォーム分析を行い、ピッチ/姿勢を修正
- 3ヶ月で50mのタイムが0.6秒改善(個人比較)
- トレーニング前後で「腕の使い方」や「脚の上がり方」がまるで別人に
→ 脚力そのものよりも「使い方」で速くなった好例
■ 「親が遅かった子」が伸びた理由とは?
ある指導者コラム(syunsoku.jp)では、こんな実例も紹介されています。
- 親は「運動苦手」だったが、子どもは教室に通って2ヶ月でタイム劇的向上
- 家庭環境を見てみると…
- 親が「失敗してもいいから試してごらん」と励ましていた
- 練習の頻度が高く、映像や道具も活用していた
- 「どうして速くなりたいか」を話す機会が多かった
👉 このように、練習環境・支援の質・心の土台が整っていたことが、速さの“後天的開花”につながったと見られています。
■ 考察:遺伝型を知ることのメリットと限界
✅ メリット:
- 「どう伸ばすべきか」の方向性が見える
→ 例:速筋型 → パワー系中心/遅筋型 → 技術と持久系強化 - 「過剰な期待/劣等感」から距離を取れる
⚠️ 限界:
- 遺伝型だけを見て“向き不向き”を断定するのはNG
- 速くなるには、筋トレ/フォーム改善/モチベーション/食事/回復など複数要素が不可欠
■ まとめ:遺伝がどうであれ、“まだ伸びる”は誰にでもある
最後に、今回のポイントを簡潔に振り返ります。
✅ 遺伝は「伸びしろの上限」に影響するが、そこまで届く人は少ない
✅ スプリント能力は「努力で十分に改善可能」なスキルでもある
✅ 自分の“伸びやすさ”に合ったやり方が鍵
「足の速さ=遺伝」は一部本当。
でも、走れる自分に変わる可能性は、後天的に開けるのです。
