■ はじめに:「“あ”ってなんだろう?」から始まる展覧会
「わあ、たのしい!」「これ、どうなってるの!?」
そんな声が、会場のいたるところで聞こえてくるのが、「デザインあ展」。
子ども向けテレビ番組『デザインあ』(NHK Eテレ)から生まれたこの展覧会は、「デザインを学ぶ」のではなく、「デザインを感じる」体験の場です。
しかしその背後には、第一線のクリエイターによる綿密な設計と、デザインの本質に触れさせるための知的な仕掛けが込められています。
本記事では、「デザインあ展」の歴史をたどりつつ、実際に足を運んだ人々の体験、そしてなぜこの展覧会が大人にも深く刺さるのかを考察していきます。
■ 2013年、六本木で“あ”は始まった
初めての「デザインあ展」は2013年、東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催されました。
これは、番組『デザインあ』の世界観を、実際の空間体験に転換した初の試みでした。
展覧会の監修は、
- アートディレクター:佐藤卓
- インタラクティブディレクター:中村勇吾
- 音楽:小山田圭吾(Cornelius)
という、名だたる表現者たち。
「子どもにも伝わる“デザインマインド”」という番組の精神を体現するために、空間、音、映像、触覚すべてにおいてインタラクティブな仕掛けが施されていました。
とくに注目を集めたのは、「みる」「かんがえる」「つくる」「つたえる」といったプロセスが展示空間に翻訳され、来場者が**“自分の身体を通して”デザインと出会う構造**になっていたことです。
■ 2018年、「in TOKYO」で新たな“あ”へ
5年後の2018年には、日本科学未来館で「デザインあ展 in TOKYO」が開催されます。
この展では、前回の展示をベースにしつつ、
- 「解散!分解!」:寿司やランドセルなどを分解して理解する
- 「組み立て体験」:ギアや工具に自分の体をはめ込んで「なる」
- 「名義化」:自分の名字が巨大タイポグラフィになる
といった、視覚+身体性+意味づけの再構築を実現した展示が追加されました。
当時の美術手帖によると、来場者数は22万人を突破。SNSでは「子どもより大人がはしゃいでた」という投稿も多く、「“考えるより感じろ”の教育展」という声も。
■ 海外の声:「これはアートであり教育であり、遊びだ」
英語圏でも話題になったこの展覧会。Spoon & Tamagoでは、「こんなにも自然に“参加したくなる”展覧会は稀だ」と述べています。
- 展示が観賞ではなく「介入」できる構造になっている
- すべてが「自分が使う言葉」「触れる物」とつながっている
- 子どもたちは無邪気に遊び、大人は考え込み、ふたりで笑い合う
といった体験が紹介され、「デザインを“語る”のではなく、“思わず出る”体験に変えた展覧会」と高く評価されています。
■ 2023–2025年、「デザインあ展 neo」へ進化
最新の「デザインあ展neo」は、2023年〜2025年に虎ノ門ヒルズで開催。
この展示では「動詞」がテーマとなり、
- 「そろえる」「つつむ」「のぞく」「かんがえる」などの行為
- 日常の身体動作や気づきを視覚化・身体化した展示
が特徴です。
感情的な体験談も多く、
「この視点が持ててよかった――!」
「街まるごとが“デザインあ”になってた」
「子どもも飽きないどころか、“もっとやりたい!”」
といった声が複数のブログやnoteで綴られていました。
■ 「デザイン=見た目」じゃない。問いかけるデザインがここにある
「デザイン」という言葉には、つい「美しさ」「装飾性」といったイメージを抱きがちです。
しかし「デザインあ展」が教えてくれるのは、もっと根本的なこと──
「どうしてこれはこの形なのか?」
「この道具は、どんな行為のために作られたのか?」
「自分だったら、どう変える?」
という、**“問いとしてのデザイン”**の存在です。
2013年の初回展から現在まで一貫して、「考える」前に「感じさせる」構造が貫かれてきました。
これこそが「デザインあ展」が大人も惹き込む理由です。
✅ 体験者=設計者 になる仕掛け
「デザインあ展」の展示は、見る側を“受け手”に留めません。
たとえば以下のような構造があります:
- 名前が巨大グリッドで表示され、「自分の記号性」を体感
- 寿司やランドセルを分解して、「成り立ち」を可視化
- ギア装置の歯車になって、自分が「機構の一部」になる
これらはすべて、「デザインされたものを観察する」だけでなく、デザインの中に“自分が入り込む”体験として設計されています。
✅ 動詞=行為のデザインを可視化
2023年以降の「デザインあ展neo」では、「動詞」がテーマに設定されています。
これはデザインを「物」ではなく「行為」から捉え直す革新的なアプローチです。
- 「そろえる」:スリッパが勝手に整列する展示
- 「つつむ」:風船や布が自動で包まれる様子
- 「のぞく」:自分が見られる視線体験
どれも「なんとなくやっている動作」が“見える化”されていて、「あ!」という驚きとともに気づきを得られます。
これはまさに、「意識の解像度を上げるデザイン教育」そのものです。
✅ 都市空間 × 展覧会の境界がない
2025年の虎ノ門開催では、展示空間だけでなく、
- 駅からの導線に貼られた「デザインあ」フォントの誘導
- 会場外のロッカーや看板に“動詞”のインストール
- エスカレーターに「のぼる」「おりる」などの表記
といった、“都市全体が展示の一部”になっていました。
これは「展示とは四角い部屋の中だけではない」というメッセージでもあり、
空間全体をデザインとして体感させる教育的実験とも言える構造です。
🧠 「あ」という言葉に込められたもの
「あ」というのは、感嘆の語。
それは「気づき」「発見」「驚き」「納得」すべてに通じます。
この展覧会が「デザインあ」と名乗るのは、
デザインを**“知識”ではなく“気づきの瞬間”**として捉えているからです。
- 答えを与えるのではなく、
- “感じたこと”に正解がある
- その気づきを、身の回りで探し始める
この構造は、まさにSTEAM教育や探究型学習といった現代教育の最前線と地続きです。
🔚 デザインあ展は「デザインする自分」に出会う場
「デザインあ展」は、完成品を見せる場ではありません。
誰もが、“見る人”から“つくる人”へ、“使う人”から“気づく人”へと立場を移動させられる、知的な遊び場です。
- 自分の名前がデザインになる
- 自分の行為が見える化される
- 自分の足元の街がデザインになる
そう、「あ」とは、自分と世界をつなぐ「はじまり」の音なのかもしれません。
