◆「この紙、何ごみですか?」――靴やバッグに詰まった“アレ”の正体
新品の靴を買うと、中にふんわりとした薄い紙が詰められていることがあります。バッグの中にも「型崩れ防止用」に紙が入っていること、ありますよね。
この紙、なんとなく「古紙回収に出しても良さそう」と思っていませんか?
実はこれ、「昇華転写紙(しょうかてんしゃし)」と呼ばれる特殊な紙であり、古紙に混ぜると再生紙全体をダメにしてしまう可能性がある“要注意ごみ”なのです。
この紙に使われているインクは昇華性染料という種類で、**熱や湿気に反応して再び「浮き上がる」**という性質を持っています。再生紙の原料に混ざってしまうと、完成後の製品に突然、**青・赤・紫などの“あじさい模様のような斑点”**が現れ、製品不良として出荷停止になる事態すらあるのです。
◆「1枚混ざれば100トンがパー」――昇華転写紙が引き起こす損失
古紙再生促進センター(PRPC)の資料によれば、A4用紙1枚ほどの昇華転写紙が古紙原料に混ざるだけで、最大100トンの再生紙が製品化できなくなる可能性があるとされています。
なぜそこまで深刻な影響が出るのか?
理由は、再生紙の工程にあります。
古紙は一度パルプに戻され、異物やインクを取り除く工程を経て新しい紙になりますが、昇華性インクは通常の処理では完全に除去できません。むしろ、熱や摩擦で再活性化してしまうことがあるのです。
さらに厄介なのは、斑点の発現が完成後しばらく経ってから起こることもある点。製品として市場に出た後、数週間〜数ヶ月で「なんか模様が浮いてきた…」というクレームに繋がることもあるため、製紙メーカーや印刷業者にとっては極めてリスクが高い“混入物”とされています。
◆混入事例と現場の混乱:「あじさい斑点」で返品・再検品
実際にこの問題が発生したケースとして、印刷会社のブログに記録された実体験があります。
ある製品で納品後に斑点が浮き出し、得意先から「これは不良品だ」と返品。全数検品となり、在庫管理も滞ったとのこと。調査の結果、再生紙の原料に微量の昇華転写紙が混ざっていたことが判明しました。
このように、一見無害に見える“詰め物の紙”が、実は何十万円、何百万円単位の損失に繋がることもあるのです。
◆「分別していれば防げた」――自治体と業者が危機感を共有
昇華転写紙の問題は、全国の自治体や製紙メーカーがすでに危機感を持って取り組んでいます。
たとえば京都市では、靴やバッグの詰め物について「古紙に混ぜてはいけない禁忌品」として明記。分別ガイドにも掲載されています。
また、古紙問屋・回収業者では「昇華転写紙の混入は歩留まりを下げる最大要因のひとつ」として、搬入前のチェックを強化しているところもあります。
さらには、PRPCや環境団体が、業界向けに昇華転写紙の見分け方を紹介しています:
- 反転した文字や絵柄がある(インクが「反転印刷」されていることが多い)
- 非常に薄くて、柔らかい手触り
- アルコールをしみこませた布で軽くこすると色がにじむ
こうした知識があれば、家庭でもある程度判断できるようになります。
◆【中間まとめ】私たちが知っておくべきこと
- 靴やバッグの中に詰めてある紙は「昇華転写紙」である可能性が高い
- 見た目は“ただの紙”でも、再生紙に混ぜると重大な品質不良につながる
- ごみとしては**可燃ごみ(燃えるごみ)**に出すのが正解
- 自治体の分別ルールや製紙業者の損失リスクとも密接に関わる社会的問題
◆「私、ずっと古紙だと思ってた…」――個人の体験が示す“誤解”
あるブロガーはこう書いています。
「靴に入ってた詰め物の紙、ずっと古紙回収に出してた…『再利用できて偉い私』くらいに思ってた。
でもそれが“昇華転写紙”で、むしろ紙のリサイクルを邪魔してたなんて…ショックすぎる」
このような“善意の誤解”が、実は全国で多発しています。
理由はシンプルです。見た目が普通の紙にそっくりで、注意書きも一切ない。
さらに、軽くて柔らかく、なんだか「環境に優しそう」にさえ見える。
その結果、分別があいまいになり、結果として再生紙工場での損失トラブルにつながってしまうのです。
◆昇華転写紙が“増えてしまった”理由とは?
ではなぜ、このような紙があらゆる製品に使われるようになったのでしょうか?
答えは、印刷・デザイン業界の進化と流通効率の両立にあります。
📌 昇華転写技術の拡大
昇華転写紙は本来、ポリエステル系の布地や素材に印刷を転写するためのもの。
たとえば、スポーツユニフォームやイベントTシャツ、エコバッグなどに使われています。
ここで使われる“昇華性インク”は、発色が鮮やかで滲みにくく、プリント工程も簡略化できるため、近年需要が爆増しています。
📌 工場の端材を「詰め物」として再利用
プリント業者で余った昇華転写紙は、捨てるよりも「詰め物」として流通業者に回されることがありました。
軽くて柔らかく、コストも安い。まさに詰め物に最適だったのです。
しかしここに「昇華性インクが再発色する」という落とし穴が潜んでいました。
◆根本解決には「情報の可視化」と「流通の見直し」が必要
現在は、可燃ごみとして処分することが最善ですが、それはあくまで応急処置にすぎません。
長期的には、以下のような構造的対策が求められています。
✅ 昇華転写紙には「識別表示」が必要
たとえば、
- 🔖 詰め物紙に「再利用禁止」「可燃ごみ専用」などの印字を加える
- 📦 靴箱やバッグに「中の紙は古紙ではありません」と明記する
といったラベリングがあるだけでも、消費者の判断は大きく変わるはずです。
✅ 流通経路の再設計(端材を詰め物にしない)
工場の昇華転写紙の端材が詰め物として回される流通を断ち、
梱包資材には「再生紙か、インクのないクラフト紙のみ使用」というルールを業界内で整備する必要があります。
また、リサイクル関連業者の間でも「再生紙品質を保つための禁忌品リスト」を明確に共有し、監視・指導を強める動きも全国で始まっています。
◆私たちにできる3つの実践ポイント
最後に、日常でできる対策をシンプルにまとめておきます。
✔ 1. 靴・バッグの中に入っている紙は、燃えるごみへ
古紙回収には絶対に入れない。反転した絵柄が見える紙や、極端に薄い紙は要注意。
✔ 2. 「これは古紙か?」と迷ったら、処分先を調べる
お住まいの自治体の分別ガイドを見る/自治体サイトで「昇華転写紙」「詰め物 紙」などで検索を。
✔ 3. 発信者になる
ブログやSNSなどで「こういう紙は古紙じゃないらしいよ」とシェアすることで、
誤解を防ぎ、資源の損失を防ぐ力になります。
◆【まとめ】善意の誤解が、静かに環境を壊しているかもしれない
「エコな行動をしたつもりだった」
「リサイクルに協力してると思ってた」
そんな優しさや善意が、逆に資源を無駄にしてしまう——
そんな事例が“昇華転写紙”なのです。
ただ、これは防げる問題でもあります。
問題を知り、仕組みに目を向け、少しだけ処分方法を変える。
それだけで、100トンの紙が救われるかもしれない。
そんな可能性のある一枚が、靴の中に詰まっているかもしれません。
