■リコール対象は418万台、でも“製品の欠陥”ではなかった?
2025年9月16日、ティファール(T-fal)ブランドで知られるグループセブジャパンが発表したリコール情報が注目を集めました。
対象となったのは、2021年10月〜2024年7月までに製造された電気ケトル「アプレシア」や「テイエール」など61機種の製品。
国内流通台数は実に418万台超という大規模なものです。
問題の発端は、電源コードまわりの発煙・発火事故が相次いだこと。
経済産業省や消費者庁に報告された事例の中には、軽度ながらやけど被害が発生したケースもありました。
しかし、今回のリコールは少し異質です。
ティファール側は明確にこう述べています。
「製造工程上の異常はなく、技術基準にも適合している」
「問題の原因は、“不適切な使用方法”による電源プラグの破損にある」
つまり、壊れたのは“使い方”だったというスタンスです。
■“不適切な使用方法”って、いったい何を指すの?
では、その“問題となった使い方”とは一体何だったのでしょうか。
専門メディアやプレスリリースを総合すると、主に以下のような行為が該当すると考えられています。
☑ 主な「不適切な使用方法」例
- 電源コードを持ってプラグをコンセントから抜く
→ 本来はプラグ本体を持って抜くべき - ケトル本体を持ったまま無理な角度でコードに負荷をかける
- 電源プレート部分に水や蒸気が直接かかる状態で使用し続ける
- コンセントとプラグの抜き差しを頻繁に繰り返す使い方
これらの行為が続いた結果、電源プラグの根元が破損。
そこから「ショート」「発熱」「発煙」「まれに発火」という危険が発生するという流れです。
■「使用者のせい?」という違和感とモヤモヤ
この発表には、ユーザー側から少なからぬ困惑やモヤモヤも広がりました。
SNSでは以下のような反応が見られました。
- 「え、コード持って抜いちゃダメだったの……?」
- 「うちのもティファールだけど対象外だった。でも使い方に不安が残る」
- 「なんだか“ユーザーのせい”にされてる気もする……」
確かに、説明書に書いてあるとはいえ、“コードを持って抜いてはいけない”という知識が浸透していたかといえば疑問です。
そしてこのリコールは、「製品の欠陥ではないが、重大事故に至る構造上のすき間があった」という、ややグレーな立ち位置にあります。
■同じような事例は他にもある?──“使い方次第で火が出る”系事故
ティファールの今回の件に直接関係はないものの、似たようなリスク構造を持つ家電製品トラブルはこれまでにも報告されています。
🔥 事例①:過去のティファール空焚き事故(空焚き防止装置の不良)
- 内容:ケトルの中に水がない状態で加熱され、空焚き防止機能が作動せず、過熱・発火に至った事例
- 対応:製造元による無償点検・交換と国からのリコール指示
- ポイント:本体の不具合だが、「空焚きはやってしまいがちな使い方」であり、こちらも“構造と使用者の間にズレ”があった
🔋 事例②:モバイルバッテリー・ポータブル家電の発火
- 内容:リチウムイオン電池を内蔵した家電が、過充電・高温環境などで発火。ユーザーの使い方も影響
- 対応:NITE(製品評価技術基盤機構)などが注意喚起を定期的に発表。非正規品の流通も問題視
- ポイント:「安全な使い方」が一般に共有されておらず、事故後に「そんなこと知らなかった」となる構造が多い
■共通するのは、「思わぬところで使い方が問われる」構造
こうした事例に共通しているのは、
- 一見“普通の使い方”が、実は危険を招いていた
- 説明書やラベルに注意書きがあっても、ユーザーに届いていない
- そして、事故が起きたときに「製品ではなく使い方が問題」と整理されがち
という構造です。
これは、「法律的には製品が悪くない」としても、使い方とリスクの間にギャップがあるという意味で、使用者側にはどうしても不安や疑念が残ります。
■今日からできる「安全に使う」ためのチェックポイント
では、「不適切な使用方法」と事故を防ぐために、何ができるのでしょうか。
実は、ほんの少しの意識と手間で、リスクは大きく減らせます。
✅ 使い方チェックリスト
| 項目 | 内容 | チェックポイント |
|---|---|---|
| プラグの抜き方 | コードではなく「プラグの根元」を持って抜く | 「つい引っ張る」クセがないか見直す |
| コードの取り回し | 引っ張ったり、曲げすぎたり、無理に巻き付けない | 使用後に癖がついていないか確認 |
| 電源周辺の蒸気・水滴 | 湯気がプラグ部分にかからないように使う | 本体の設置場所を見直す |
| 使用中の振動・傾き | 無理な位置でケトルを持ち上げない | 電源プレートとの接触が不安定にならないように |
| 抜き差しの頻度 | 頻繁に抜き差しをせず、設置したまま使う | 物理的な劣化を防ぐ習慣を |
🔍 見逃しやすいポイント
- プラグの根元が熱くなる/色が変色している → 発熱・劣化の初期兆候
- 差し込みが緩くなった/ガタガタする → 長期使用による摩耗リスク
- ケーブルがねじれて戻らない → 内部の線材が傷んでいる可能性
こうした異常が見られた場合は、使用を中止して交換・点検を考えましょう。
ティファールのように、リコールや無償交換制度を実施している場合もあるため、まずは公式サイトで型番やロット番号を確認するのが第一です。
■「説明書に書いてあるから」では届かないものがある
今回のリコールで感じるのは、「説明書に書いてあるから安全」「表示しているから自己責任」というスタンスだけでは足りないということです。
家電製品は、毎日の生活の中で何気なく触れるもの。
使い方が“理想通り”であることを前提にするのではなく、「ついこうしてしまうかも」というリアルな行動に寄り添った設計や啓発が求められます。
一方で私たち消費者も、「使い方を工夫して、安全を守る」という視点を持つことで、事故の多くは防げるはずです。
■“製品ではなく使い方が悪かった”とされないために
現代の家電トラブルの多くは、「ユーザーが悪い」とされがちです。
けれどそれは、情報が足りなかったり、使い方の“クセ”が当たり前になっているせいかもしれません。
もし「これって私の使い方が悪かったのかな?」と感じたら、
それはあなたが危機管理の感覚を持っているということ。
そして、メーカーや行政が発信する情報をキャッチしようとしている証拠です。
🔍 補足:ティファール電気ケトルの“リコール判断”は、訴訟リスクの回避戦略でもある?
今回のティファールによる電気ケトル418万台の大規模リコールは、一見すると「製品不良があったから当然の対応」と見えますが、実際には少し異なる構造が見え隠れしています。
というのも、ティファール側は「製造工程や設計上の欠陥はない」「事故の原因はユーザーの不適切な使用方法によるもの」と明確に述べています。
それでも無償交換を実施するという判断に至った背景には、製造物責任法(PL法)に基づく訴訟リスクをあらかじめ封じておく意図があると推察できます。
以下に、その背景となる事実や専門的見解を整理します。
■ 1. 「不適切な使用」は本当に使用者の責任か?
PL法の視点では、「誤使用(いわゆる“ユーザーミス”)」であっても、
それが製品の通常の使用状況として予見される範囲内であれば、製造者側に責任が生じる可能性があります。
たとえば今回のケースでは──
- コンセントを抜くときに“コードを持って抜く”という行動は、実際に多くの人がやってしまうクセであり、完全に想定外とは言いづらい
- プラグを強く引っ張る、曲げるといった扱いも、「想定しうる誤使用」に分類される可能性がある
つまり、「説明書に書いてあった」「正しく使えば問題ない」という主張だけでは、必ずしも法的責任から逃れられるわけではないのです。
■ 2. 訴訟で問われるのは“欠陥の有無”と“注意喚起の妥当性”
製造物責任法において製造者が責任を問われる条件は、大きく3つに分類されます。
| 種別 | 内容 | ティファール該当の有無(推定) |
|---|---|---|
| 設計上の欠陥 | 安全性を満たさない設計 | 否定(メーカー調査でも不備なし) |
| 製造上の欠陥 | 製造ミス・異常混入など | 否定(ロット管理上も正常) |
| 指示・警告上の欠陥 | 注意表示・説明の不備 | リスクあり:使い方の注意が届いていたかが鍵 |
つまり、仮に訴訟が起こった場合、争点となりうるのは**「コードを持って抜くと危ない」ことが、どれだけ明確に、ユーザーに伝わっていたか**という点です。
■ 3. 事後対応の内容が訴訟リスクの軽減につながる
製品事故後の迅速なリコール対応や無償交換の実施は、法的・イメージ的な責任を軽減する戦略としても極めて有効です。
- リコールは法的には「自主対応」ですが、**事実上は“将来の訴訟を予防する手段”**でもあります
- 被害者が訴えた場合でも、「既に対応策を提示していた」「再発防止に動いていた」ことが、企業に有利な要素として働く可能性が高い
加えて、グループセブジャパンは
- 経済産業省・NITEと連携し
- 特設ページで対象ロットの検索機能を提供し
- 電話受付も設置しており
形式だけでなく、実務的な被害防止の努力も見せているのが特徴です。
■ 4. 製造者側の“事前防衛”としての構え
今回のようなリコール対応は、実際に損害賠償訴訟が発生する前に、
- 製品が原因で重大事故につながるリスク
- 説明不足や設計配慮の欠如を問われる余地
- 消費者の「知らなかった」ことによる被害主張
……といった訴訟要因の火種を先に消しておく対応としても読み取れます。
特にティファールの発表文では、以下のような“防御線”が確認できます。
- 法令や安全基準に適合していることを強調
- 製品起因の不具合でないことを明言
- ただし「安全性向上と安心提供のために自主対応を行う」と表現
このような言い回しは、「欠陥はない」ことを主張しつつも、消費者感情への配慮を示す訴訟予防型トーンといえます。
■ 5. ユーザー視点では「事前に防げた事故」となる余地も
反対に、被害者(または原告)となる側の視点では、
- 「普通に使っていただけ」
- 「そこまで気をつけろとは思わなかった」
- 「同じ使い方をしている人が何百万人もいる」
という主張が“事故の回避可能性”として認められれば、
訴訟で製造者側に賠償を求める余地も出てきます。
つまり、今回のリコールは
▶ 製品の欠陥ではないが、
▶ ユーザーの行動を完全に管理できるわけでもなく、
▶ 事故が起きれば「誰が悪かったか」の境界線が極めて曖昧になる
……そんな微妙なバランスの中で起きた“訴訟未満”の火消し対応といえるのかもしれません。
🟢 まとめ:安心の“設計図”は、メーカーだけが描くものじゃない
今回のティファール電気ケトルのリコールは、明確な欠陥があったわけではありませんでした。
製造工程も、設計も、法律もクリアしていた。
それでも400万台以上を回収する決断に至ったのは、**「それでも不安が生まれる余地があった」**からです。
そしてその背景には、法律、訴訟リスク、ユーザーの行動傾向、注意喚起の伝わり方……
多くの「構造的すれ違い」が関係しています。
✅ 私たちができること(行動提案)
- “正しい使い方”は、自分の手元で再定義することができる
→ コードをどう抜くか、どこに設置するか。注意される前に、注意しておく - 「説明書を読んでいない」のは、自分だけじゃないと気づく
→ だからこそ、“使い方のクセ”が問題になる。想像力を足すことが予防になる - 事故は“悪意”より“構造のズレ”で起きる
→ 自分の動きと製品の設計にズレがあるとき、事故が生まれる。その視点を忘れない
⚠ メーカーと使用者、どちらかが100%悪いという話ではない
訴訟というものは、ときに「白黒をつける戦い」になります。
でも現実には、その間にある「グレーな盲点」が、いちばん事故を生みやすいのです。
今回の件が示してくれたのは、安全の責任は“分かち合うもの”であるということ。
メーカーは、使い方を想定して設計し、警告し、交換する。
私たちは、その情報を受け取り、自分なりの使い方を見直す。
それだけで、火花が散る未来を、いくつも未然に防ぐことができるかもしれません。
