「また米が高くなってる」──そして今、茶も
「静岡茶が4倍の価格で取引されたらしい」「なんか最近、お茶が高い気がする」
──そんな声が、SNSやニュースの片隅にぽつりぽつりと現れてきました。
米の価格がじわじわと上昇し続けていることに続き、日本人にとって欠かせない“もうひとつの国民食”である茶にも異変が起きています。それも単なる物価高とは少し違う、どこか不透明で納得しにくい感覚を伴って。
この小さな違和感を出発点に、「国民食」が抱える圧力と、私たちがそれにどう反応しているのかを掘り下げてみます。
高騰の現場:静岡茶、秋冬番茶が前年比4倍
2025年9月、静岡の茶市場で「秋冬番茶」が前年比4倍の価格で取引され、大きな話題を呼びました。
驚きのポイントはこうです:
- 品質は例年並み(味や香りに劇的な変化はない)
- 生産量も突出して少ないわけではない(天候被害は限定的)
- にもかかわらず、需要が加熱して価格が暴騰
静岡茶といえば、日本茶の象徴とも言える存在。業者の中には「こんな価格ではとても買えない」と嘆く声も上がっています。
この現象を見て、多くの人が「米の時と同じだ」と感じ始めています。
「米も高騰している。今度は茶だ。なぜ“国民食”ばかりがターゲットになるのか?」
人々の反応は3つに分かれている
茶や米の価格高騰に対する世の中の反応を眺めていると、ざっくり3つのパターンが見えてきます。
① 驚き・怒り・嘆き
「なんでこんなに高いの?」「庶民の生活をわかってない」「高すぎてお茶を買えない時代が来るなんて」
──率直な感情が噴き出す層です。
② 背景を探ろうとする動き
「海外需要が増えてるから?」「農家が減ってるのでは?」「原料が抹茶用途に回されてる?」
──メカニズムや業界構造を読み解こうとする層です。
③ 流れを逆手に取る視点
「じゃあ今のうちに買っておこう」「ふるさと納税の返礼品で補おう」「別の産地に切り替えたら?」
──価格変動を利用しようとする層です。
この「感じ方の違い」をたどっていくと、社会の中でどんな圧力やズレが生まれているのかが浮かび上がります。
3つの視点から見えてくる深層構造
さらに深く見ると、次の3つの視点がこの問題を立体的にしてくれます。
【心理的視点】──“守られているはず”という思い込み
茶や米は「文化的に大切なもの」「国家が守ってくれているはず」という信頼感が根底にあります。だからこそ、それが崩れたときのショックは大きい。「まさかこの商品が?」という心理的ズレが怒りや陰謀論を呼びます。
【日常行動の視点】──変化に鈍感なまま慣れてしまう
いつものものが少しずつ高くなると、人は意外と見過ごしてしまいます(いわゆる“ゆでガエル現象”)。茶や米の高騰は、生活インフラの静かな崩壊として、知らず知らずのうちに恐怖を植え付けています。
【制度構造の視点】──農業政策と価格形成の歪み
茶農家の減少や後継者不足、製茶業界の大手による原料確保、農業補助金・保護制度の後退…こうした構造が、「茶も米も、もはや公共財ではない」という現実を価格という形で突きつけています。
米と茶に共通する“国民食”としての圧力構造
「米」と「茶」。この2つに共通するのは、「なくなったら困る」「みんなが食べている/飲んでいる」という“国民食”としての性格です。
その特徴をあらためて見てみると:
| 視点 | 米 | 茶 |
|---|---|---|
| 日常性 | 主食。毎日食べるもの | 食後や来客時に必ず飲まれる |
| 社会的役割 | 給食・おにぎり・災害備蓄 | 葬祭・来客・おもてなし文化 |
| 地域アイデンティティ | 魚沼産、つや姫、ななつぼし… | 静岡茶、宇治茶、知覧茶… |
| 国民感情 | 「国が守るべきもの」という幻想 | 「文化財のような存在」という感覚 |
こうして見ると、米も茶も「公共財に近い位置にあるが、実際は市場に任されている」商品であることが分かります。
だからこそ、“気づいたときには高くなっている”という現象に、強い戸惑いや怒りが向くのです。
なぜ「誰かが仕掛けてる気がする」のか?
SNS上でもたびたび見られるのが、「これは自然な値上がりじゃない」「誰かが仕掛けてるのでは?」という声です。
その理由は3つあります。
① 情報が曖昧で、説明がない
価格が4倍になっても、テレビやニュースでは「需要が高まっているため」「海外人気の影響」などとぼんやりとした説明しかありません。
→ 誰も納得していないのに、静かに受け入れざるを得ない状況が、不信を生みます。
② “買い占め”や“囲い込み”のような動きが見える
- 抹茶原料の需要急増によって、大手メーカーが原料を確保
- 中小業者が「仕入れられない」「価格についていけない」と嘆く
- 「買いたい人が買えない」状況が生まれる
こうした構図は、米価高騰の時期にも一部で見られたもので、“誰かが得をしている”という感覚を加速させます。
③ 言葉や報道に「誘導」が見える
- 「空前の抹茶ブーム」
- 「高価格でも売れてしまう」
- 「日本茶が世界で評価されている」
──これらの文脈が、「高騰は当然」「むしろ誇らしいこと」という空気を作り出します。
しかしその裏で、生活者は“ついていけなくなっている”のが現実です。
ミスリードの兆候:こういう言葉に注意
もしあなたが報道や広告で次のような言い回しを見かけたら、それは価格高騰の“言い訳”や“正当化”に使われているかもしれません。
- 「過去最高値でも引き合いが強い」
→ 本当に全体が欲しがっているのか?一部が突出して買っているだけでは? - 「インバウンド需要で供給ひっ迫」
→ 国内向けの商品なのに、なぜすべて“海外のせい”に? - 「品質へのこだわりから価格反映」
→ 例年並みの品質でも同じ理屈で使われていないか?
こうした“ミスリード構文”は、無意識のうちに「まあ仕方ないか」と感じさせ、生活者の不満を鈍らせます。
私たちができる対処法と“備え”
現状で完全に状況を覆すことは難しくても、生活者として取れる選択肢はあります。
✔ 代替産地・品種を知っておく
- 茶なら、鹿児島・三重・岐阜産なども選択肢に
- 米もブランドにこだわらず、地元産や無名品種を見直すのも手
✔ ふるさと納税を活用する
返礼品で茶や米を受け取ることで、実質的に“防衛的買い置き”が可能に。生産地との距離も縮まります。
✔ 情報の“出どころ”を見極める
「誰が」「何の目的で」発信している情報かをチェックするクセを持つと、ミスリードや印象操作に巻き込まれにくくなります。
最後に:次に“高騰”が来るのは何か?
米、茶……そして今後、高野豆腐、味噌、昆布、だしなど、“見えにくくて文化的な食品”がターゲットになる可能性もあります。
それは「価格で語りにくい=気づかれにくい」から。
だからこそ、「何が起きているのかを自分の目で見て、考える」ことが最大の備えになるのかもしれません。
