なぜ黒潮は蛇行するのか?──1970年代の大蛇行とエルニーニョの見えない関係

この記事は約8分で読めます。

▷この記事で伝えること

  • 黒潮大蛇行とは何か?なぜ起きるのか?
  • 1970年代に起きた異例の長期蛇行と、その背景にあった「流量変化」
  • エルニーニョ現象や気候変動とのつながり
  • 黒潮の「ズレ」が日本の気象・漁業に及ぼす影響
  • 長期的な変化にどう備えるか?

日本近海を流れる黒潮は、美しい海流として知られる反面、時折”大蛇行”という異変を起こします。1975〜1980年の長期的な蛇行は、まさに“海の異変”として記憶されており、近年(2017〜2025年)はそれすら塗り替える異例の現象となりました。しかし、なぜそんな大蛇行が起きるのでしょうか?さらに、遠く離れた熱帯の現象「エルニーニョ」が影響しているとすれば、地球規模の気候システムの“海の歪み”が私たちの暮らしにまで迫るという、まさに“地球のつながり”そのものです──。

本稿では、信頼性の高い研究や専門家による解析を通して、「なぜ1970年代に大蛇行が頻発したのか」「エルニーニョとどう関係しているのか」を、事実ベースでひも解きます。


1. 1970年代〜1980年代の黒潮大蛇行とは?

頻発する「海の蛇行」──歴史的な潮流の異変

気象庁の「海洋の健康診断表」によれば、1970年代後半から1990年代初めにかけて、黒潮大蛇行が頻繁に発生していた時期であったことが明記されています。これは、1960年代中頃には非大蛇行状態が続いていたのとは明らかに異なるパターンです海洋研究開発機構+4東北大学機関リポジトリ+4海洋研究開発機構+4気象庁データ+1

さらに、国立研究開発法人・水産研究・教育機構の分析では、1975年8月〜1980年3月の大蛇行は1967年以降で最長だったと報告されていますアグリナレッジ+1。同様に、1934〜1943年、1953〜1955年、1959〜1962年にも大蛇行が確認されており、1975〜1980年はその中でも突出した長期的現象だったことがはっきりしています気象庁データ+15フランス大使館+15公益社団法人 日本気象学会+15


2. なぜ1970年代に大蛇行が頻発したのか?

「流量の低下」が蛇行を長く定着させた

海洋研究開発機構(JAMSTEC)によれば、黒潮が蛇行しやすく、かつそれが長期化する背景には、流量が小さかったことが大きく関係しているとされています。つまり、黒潮の水の勢いが弱いと、まっすぐ安定した沿岸流路ではなく、蛇行しやすくなるという仕組みです海洋研究開発機構+1

さらに、「遠州灘沖における海洋の層構造(成層)が強まると、蛇行しにくくなる」など、海洋内部の温度構造も流路安定に関与している可能性があるとする研究も存在しますKAKEN+4kaiyo-gakkai.jp+4公益社団法人 日本気象学会+4


3. エルニーニョが“遠く”から黒潮に影響する?

熱帯の揺らぎが中緯度の海流に届く

黒潮の蛇行は、単なる海流の地元的な変化ではありません。エルニーニョ現象に代表される熱帯の海面温度異常が、大気を通じて太平洋を横断し、日本近海に影響を及ぼす可能性が、研究で示されています。

たとえば、遠隔地でのエルニーニョによって大気中に発生する波動(ロスビー波など)が、黒潮続流域に到達し、結果として本流である黒潮の流れにも影響するとする研究的な視点が存在します。これは、気候モデルやシミュレーションから支持されており、単なる仮説にとどまらない科学的な裏付けがありますpol.gp.tohoku.ac.jp+1

特に、1976年以前は黒潮の流量が少なかったが、その後流量が増加し、流量が大きいときには遠州灘沖で蛇行しやすい傾向があることも観測的に指摘されており、熱帯から遠隔で伝わる気候変動との関連性にも奥行きが見られますtoray-sf.or.jp


4. 当時を取り巻く気候環境の背景

気候レジームの転換期──地球規模の変化の影響

1970年代は、世界的に気候が転換期にあった時期です。エルニーニョ/ラニーニャのようなENSO(エルニーニョ南方振動)現象の強弱が変化しつつあり、日本海溝付近や北太平洋にもその影響が波及していました。

東北大学・杉本周作准教授らの研究などでは、エルニーニョに伴う表層熱輸送量の変動や、それが高緯度〜中緯度の海洋に及ぼす影響を詳細に解析しており、遠隔の気候現象が日本周辺の海洋にまで作用する構図が学術的に整理されていますpol.gp.tohoku.ac.jp


5. それらがもたらす日本への影響(簡単な補足)

  • 気象への影響
    黒潮の蛇行は、海水温の分布変化を通じて冬季の南岸低気圧の経路や降雪傾向に変化をもたらしますConfit+5公益社団法人 日本気象学会+5海洋研究開発機構+5
  • 夏の猛暑との関係
    近年では、黒潮大蛇行中に静岡付近での海水温が例年より約3度高くなり、関東の猛暑(例えば浜松市で観測史上最高の41.1℃)の一因となったとする研究もあります海洋研究開発機構

前編まとめ(約4,000文字)

テーマ要点
1970年代の大蛇行頻発気象庁・水研機構の記録で確認、特に1975–1980年が最長期
原因/流量の関与流量低下が蛇行とその長期化を促した(JAMSTEC)
エルニーニョとの関連熱帯の波動が大気伝搬・ロスビー波として伝わり、黒潮に影響
背景となる気候変動ENSOの振幅変化、表層熱輸送の変動等が基盤
日本への影響冬の降雪傾向や夏の猛暑といった気候へ波及の可能性
スポンサーリンク

6. 黒潮の“曲がり方”はどう決まる?──大蛇行の構造とは

◎ 通常の黒潮 vs 大蛇行期の黒潮

黒潮は、フィリピン近海で形成され、沖縄・九州の東側を通って本州南岸を流れる西岸境界流です。通常は日本の太平洋沿岸に沿って安定したルートをとりますが、大蛇行時には紀伊半島の南から大きく南下して房総半島南部で再び北上する「南側ルート」に変化します。

この“曲がり方”を決めるカギの一つが、黒潮の接続先(続流)との関係と、その先に存在する冷水渦の発生・位置です。

◎ 冷水渦の影響と「定着」する蛇行

2022年の朝日新聞報道やJAMSTECのデータによると、**九州南東沖で発生した「冷水渦」**が南西方向へ移動しながら黒潮の流路に影響を及ぼしたことが分かっています。
この冷たい渦は黒潮の流れと“綱引き”のような関係にあり、黒潮の南下・蛇行を強化しやすい条件を作り出すとされています。

1975〜1980年の大蛇行もこのメカニズムに近く、黒潮本流の南下+冷水渦の定着=「長期の蛇行」という構図が浮かび上がります。


スポンサーリンク

7. 黒潮大蛇行を“数式で読む”──数理モデルとシミュレーション

◎ 数値モデルによる再現研究

海洋物理学では、黒潮大蛇行のような現象を非静力学的・非線形な数値モデルで再現する試みが盛んです。特に1980年代から2000年代にかけて、海洋総合モデル(OGCM)による以下のような成果がありました:

  • エルニーニョが発生すると、太平洋中部から東部の海面水温が上昇 → 対流活動が変化 → ロスビー波発生 → 黒潮続流に影響
  • その影響は数か月〜1年のタイムラグで中緯度へ到達し、黒潮の流軸を南に押し下げる力として作用

このように、地球スケールでの波動が日本近海の「海のカーブ」にまで作用するというスケール感の研究が、科学的根拠を支えています。

※例:Taguchi et al. (2005), Sugimoto et al. (2021) など


スポンサーリンク

8. 2017〜2025年の黒潮大蛇行との比較:パターンは繰り返すのか?

2025年に終息した大蛇行(2017年8月〜2025年4月)は、観測史上最長の7年9か月に及びました。

この現象と、1970年代の大蛇行には次のような類似点と相違点があります:

項目1975〜1980年2017〜2025年
継続期間約4年7か月約7年9か月(史上最長)
原因の中心流量減+冷水渦冷水渦+エルニーニョ+気候変動の長期影響
観測技術限定的(衛星少)高精度の衛星データと深層センサーあり
気候背景ENSO活動の転換点地球温暖化による海面温度の高止まり

つまり、メカニズムの根本は似ているが、気候変動という“第3因子”が大きくなっているのが現代的特徴です。


スポンサーリンク

9. 気候変動時代における黒潮大蛇行──どう付き合う?

黒潮大蛇行は、もはや「たまに起こる異変」ではなく、長期的な海洋構造の一部として受け止める必要があります。特に、地球温暖化の影響で次のようなリスクが高まっています:

  • 沿岸の漁業資源の消失(イワシ・サバの不漁)
  • 豪雨や極端な高温といった異常気象の頻度増
  • 海洋熱波によるサンゴの白化や海洋生態系の再編

これに対し、衛星観測や海洋ブイ(ARGO)などの技術の活用がカギとなります。また、水産業・観光業・自治体は、「流路が変わること」を前提にした運営を求められる時代に突入しています。


スポンサーリンク

10. 考察:遠くからやってくる“ズレ”を察知する目を

1970年代の大蛇行と、現在の大蛇行には一貫して**「見えない遠隔因子」が存在しています。それは、遠い赤道の温度変化であり、地球全体の熱のバランスのズレです。

私たちは、自分たちの周囲だけを見ていては、異変の根を見落とす時代に生きている。

エルニーニョも、冷水渦も、黒潮の流路もすべてつながっており、それが地震とは違う“ゆっくりした異変”として暮らしを変えていきます。

黒潮の揺らぎを「ただの海流の乱れ」ととらえるのではなく、**私たちの環境・産業・安全を形づくる“構造のズレ”**として理解していく視点が必要です。


スポンサーリンク

🎯まとめ(後編)

  • 黒潮大蛇行は、冷水渦・流量・大気波動の相互作用によって発生・定着する
  • エルニーニョとの関係は数値モデルでも裏付けられており、遠隔で影響を及ぼす
  • 1970年代と2010年代以降では、気候背景と影響範囲が拡大している
  • 今後は、気象・漁業・観測体制など多方面で“蛇行を前提とした構造”が必要
  • 地球規模のズレを早期に察知し、社会の適応力を高めることが課題となる
スポンサーリンク

🔗 参考・出典

タイトルとURLをコピーしました