▷この記事で学べること
- 「難民受け入れ」が意味する制度・思想の構造
- 海外(米国・欧州)の実践例と成果
- 日本に欠けている視点とは何か
- 次に必要な“社会の設計”について考えるヒント
【1】「難民受け入れ」とは何か?その言葉の本質
ただ「人を受け入れる」のではなく、難民に「安全保障」・「生活再建」・「社会参加」を提供する、包括的な社会構造の設計を意味します。具体的には以下の3要素が柱です:
- 法制度の整備:難民認定プロセス、再定住・補完的保護を定める法体系が整備されているか。
- 地域・国家の受け入れ体制:住居、生活支援、教育、就労などを担うインフラと受け入れ策が機能しているか。
- 社会の共生意識:受け入れ社会が「助ける側」ではなく、「ともにつくる社会」として設計されているか。
【2】海外ではどう構築されているか?
米国:UNHCRと連携した再定住制度の歴史(Berkeley分析)
Berkeley’s Othering & Belonging Instituteは、米国再定住プログラムの歴史と脆弱化の兆しを分析しています。制度は1980年の難民法が基盤となり、複数の公的機関と非営利が協働して運用されてきましたが、財政削減や政治的圧力により制度が痛むリスクが指摘されています。
usipc.ucsd.edu
経済的視点:難民受け入れのコストと利益(UCSDの研究)
Reva Dhingraらの研究によると、難民を受け入れた自治体の短期・長期にわたる公的支出への負担は統計的に有意な増加が見られないという結果です。むしろ支援団体や宗教グループが受け入れコストの多くを担っており、難民は文化的・道徳的価値も地域に提供します。
usipc.ucsd.eduissuelab.org
【3】制度は“受け入れる意志”の具現化である
海外では「困っている人を助ける」という意志を、制度設計として具体化しています。しかし日本では…
- 難民認定の厳しさや対象の限定化
- 再定住後の支援体制の脆弱さ
- 社会の受容意識の低さ
といった課題があり、「受け入れる意志」が制度化されていない状態です。
難民を受け入れるとは、制度を通じて「共に暮らす社会をつくる」「当事者が活躍できる社会を設計する」ことに他なりません。
【4】日本はなぜ難民をほとんど受け入れてこなかったのか?
▶ 制度面の壁
- 日本は1951年の「難民の地位に関する条約」に加盟しているが、実際の難民認定率は極端に低い
- 2023年の認定率は約2.2%(申請13,823人中303人が認定)【出典:法務省入管統計】
- 「迫害の証拠」を本人が提出しなければならない制度設計がネックになっている
- 審査も年単位で長期化、仮放免中は就労・移動制限、保険にも入れないことが多い
▶ 社会的な偏見・誤解
- 「なりすましが多い」「治安が悪くなる」といった偏見が根強い
- 難民=貧困層、支援対象というステレオタイプの刷り込み
- 受け入れ=コストがかかる・迷惑という声もあり、経済的合理性ではなく感情的防衛反応が先行している
【5】では、実際に日本で難民として生きるとはどういうことか?
▶ 体験談①:Gabrielさんの声(レバノン出身)
- 1991年に来日し、日本語もできず、最初は難民センターで半年以上収容された
- 外出や連絡が制限され、「刑務所のようだった」と回想
- 現在は通訳として活動しながら、後輩難民の支援にも関わる
- 「制度が整えば、私たちは社会に貢献できる」と語る
▶ 体験談②:WELgeeによる受け入れ実践
- 日本で難民認定されなかった若者たちに、スキルマッチ型のキャリア支援を提供
- 「才能ある難民」を“雇用”という形で社会に接続
- 一例として、エンジニア志望の青年が国内IT企業に就職。現在は企業研修を経て正社員化
- 組織のモットーは:「難民は“助ける”存在ではなく、“ともに働く”存在」
【6】受け入れは「負担」ではなく「設計」の問題
UCSDの研究では、難民がもたらす中長期的な経済貢献や地域活性化の事例が数多く紹介されています:
- 難民が起業したカフェが地域コミュニティの交流拠点に
- 難民二世が地元の学校で教師として活躍
- 地方都市で人口減少対策として「受け入れによる地域活性」を進める自治体も
✅ ポイント:
難民は支援を受けるだけの「対象」ではない
正しい制度と支援があれば、「地域の仲間」に変わる
これは、日本の過疎地域や人手不足とも親和性が高い視点です。
🧠「受け入れ」とは社会をデザインし直すこと
▽ なぜ不安が広がるのか?
- 情報の不足:SNSや断片的報道による誤解の拡散
- 経験の不足:「見たことがない人々」への本能的な距離感
- 接点の不足:暮らしのなかで“接する機会”がないことによる他者化
この不安は、知識・経験・関係性の不足から生まれています。
▽ 社会として考えるべきこと
- 難民受け入れとは「人道的措置」ではなく、「国家の意思と設計の表明」
- 「助けてあげる」から「ともに生きる」へ
- 政策とともに、“市民の側にも共生の準備”が必要
そしてそれは、難民の問題に限らず、今後ますます多様化する日本社会全体のテーマでもあります。
✅ 補足:難民を受け入れることで何が起きるのか?
メリットとデメリットを整理する
🔷 メリット(長期的視点で見た「可能性」)
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 経済面 | 労働人口の補完(高齢化・少子化の中で就労層を支える) 中長期的には納税者となる可能性が高い |
| 地域活性化 | 地方移住や起業などを通じて、過疎地域での人口維持や新産業の担い手になる事例も |
| 社会的多様性 | 異文化がもたらす視点・技能・人材の多様化(例:多言語、グローバル展開への対応力) |
| 人道的意義 | 国際社会での信頼向上/平和的なイメージの形成、日本の国際的責任の履行 |
例:WELgeeによるキャリア支援を受けた難民が、国内企業で専門職として活躍しているケースも多数あります。
🔻 デメリット(備えや制度整備が不十分な場合に起きる懸念)
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 初期コスト | 住居・生活支援・医療通訳・日本語教育などに公的負担が必要 |
| 制度の未整備 | 仮放免制度の矛盾や在留資格のグレーゾーンなど、「曖昧な滞在者」を生むリスク |
| 地域との摩擦 | 異文化理解や生活習慣の違いから、誤解・対立が発生するケースも(特に接点が少ない地域) |
| 誤解や偏見 | 「治安が悪くなる」「仕事を奪う」など、実態と異なるイメージが独り歩きする恐れ |
ただし多くの研究では、「治安悪化」「経済的負担増」は統計的には裏付けが乏しく、むしろ支援体制の設計次第で緩和可能とされています。
📌 考え方のヒント
難民受け入れの成否は、「数の問題」ではなく「設計の問題」
つまり、「何人受け入れるか」よりも、どう受け入れて、どう地域や社会と接続するかが鍵です。
デメリットを抑え、メリットを活かすためには、国・自治体・市民・企業が連携した仕組みづくりが不可欠です。
【7】まとめ:難民受け入れは、社会の鏡
難民をどう扱うかで、その社会の成熟度が問われる。
海外では、制度と社会が共に変わってきました。
日本もまた、ただ排除するのではなく、「正しく受け入れる社会の設計」に向き合うタイミングに来ています。
