◆ 地方病院の赤字が止まらない
いま日本各地で、公立病院・準公立病院の赤字経営が深刻化しています。
新潟県では2024年度、県立病院全体の赤字額が46億円に達し、JA新潟厚生連も決算で約30億円の赤字を計上しました。
村上総合病院では赤字を理由に分娩を中止、佐渡総合病院では放射線治療が終了、松代病院は2026年に「無床診療所」へ移行予定です。
これは新潟だけの話ではなく、全国的に同様の傾向が見られます。
2024年の総務省調査によれば、自治体病院の95%が医業赤字、86%が経常赤字という「制度全体の赤字化」が進行中です。
◆ なぜ赤字が加速しているのか?
背景には以下のような複合的要因があります:
- 医療機器・電気代・委託費などの物価高騰
- 高齢化・人口減少による患者数の地域偏在
- コロナ禍による受診控えの長期化
- 診療報酬の伸び悩みと制度改定の限界
- 医師や看護師の人件費高騰・採用難
医師・看護師不足による勤務負担の過重化と合わせて、「採算が取れないのにやらなければならない」医療が増えているという構造的問題があります。
🗣 医療関係者の声:
「患者を診れば診るほど赤字になる。これは“医療の逆インセンティブ”だ」
◆ 再建できた病院もある:滋賀の成功例
そんな中、滋賀県では守山市民病院と済生会滋賀県病院が再編統合され、機能分担と地域連携を軸にした再建に成功しています。
- 守山市民病院:回復期・慢性期に特化
- 済生会病院:急性期を集中的に担当
- 経営支援:GHC(医療経営専門コンサル)の支援
- 結果:再編から3か月で黒字化、令和5年度には年間6.4億円の黒字へ
この事例は、地域ぐるみの支援・行政の関与・経営ビジョンの明確化がそろえば、再建は可能であることを示しています。
◆ 一方で、医師は“制度の外”へも流れている
こうした赤字医療の構造と並行して、もう一つの現象が起きています。
それが、医師の“自由診療”へのシフトです。
自由診療とは、健康保険制度の適用外で行われる医療のことで、たとえば以下のようなものが含まれます:
- 美容医療(脱毛、整形など)
- 再生医療や未承認薬の使用
- 発達障害・メンタル系の専門外来
- 高額の自由設定による専門治療 など
◆ なぜ医師が保険診療を離れるのか?
1つには経済合理性の差があります。
- 保険診療:診療報酬は制度で決まっており、報酬単価が低い
- 自由診療:価格は医師側が決定、収入が安定しやすい
🗣 自由診療クリニックの開業医(2023年取材):
「勤務医時代は週6日で手取り60万円。今は週3日で同水準を超えている」
また、保険診療ではカルテ記録・制度対応・夜間オンコールなどが重くのしかかる一方、自由診療は「スキルに見合った収益性」と「自由な働き方」を提供します。
◆ 財務省が制度設計の「逆インセンティブ」を問題視
2024年11月、財務省は「医師が制度の外に流れる原因」として以下の構造的問題を挙げました。
- 診療報酬体系が「勤務医より開業医」「公的より自由」に有利
- 医療資源が自由診療側に流れることで、公的医療が手薄に
- 医療提供体制の“制度内”をどう守るかが喫緊の課題
◆ 制度の公平性を維持するために必要な視点
世界経済フォーラム(WEF)は2025年、次のような提言を発表しています:
- 日本の健康保険制度は「社会の強靭性の基盤」
- 高額療養費やデータヘルスの活用で、制度内医療の魅力を高めるべき
- 医師・患者双方が「制度内で報われる仕組み」が必要
◆ 医師を“制度の中”に戻すには?
- 診療報酬の再設計(特に中堅勤務医への還元強化)
- 働き方改革とキャリア支援の両立
- 自由診療と制度内医療のハイブリッド連携モデルの設計
- 地域医療・赤字病院への人材誘導策(報酬・条件・教育)
◆ まとめ:構造の見直しなくして、医療の信頼は守れない
病院の赤字も、医師の自由診療シフトも、根っこには制度設計のゆがみがあります。
- 「患者を多く診ても儲からない病院」
- 「公共性の高い仕事ほど経済的に不利な医師」
この矛盾を放置すれば、日本の医療は制度はあっても機能しないインフラへと近づいてしまいます。
だからこそ今求められているのは、医療に関わるすべての人が制度の中で報われる社会的設計です。
単なる赤字の補填や自由診療の規制ではなく、制度の“中身”を調律する発想の転換が必要なのです。
