■ はじめに:自然が守れないとき、村はどう動くのか
「メガソーラーから自然を守るために、村が土地を買う」
一見すると当たり前のようで、実はとても戦略的な一手です。
開発予定地の多くが民有地である以上、止めたければ「買うしかない」。そんな選択を迫られる自治体が全国で増えつつあります。
特に北海道・釧路湿原を中心とした地域では、自然保護と再エネ推進が正面衝突する形になり、住民感情も揺れています。
この記事では、村がなぜ土地を買うのか、その意味と実例、そして今後どう活用されるのかを事実ベースで深掘りします。
■ なぜ「土地を買う」ことが有効なのか
● 再エネ推進と地域のギャップ
近年、国の方針として「再エネ導入」が強く後押しされています。
ところが、地方の実情はそれほど単純ではありません。
- 事業者が突然現れ、土地を買い漁る
- 景観・動植物・生活環境への影響が想定される
- 一度建設されると、20〜30年単位で元に戻らない
こうした事情を受け、住民からは「勝手に自然を壊されたくない」という強い声が上がっています。
しかし、再エネ事業者の多くは合法的に**「売られた土地」を使っている**のです。
つまり、法的には止められない——ならば“買わせない”しかないという結論に至った村もあります。
● 村が土地を買う=「主導権の奪還」
村(=自治体)が土地を買う行為は、行政として以下の意図を含みます:
- 自然保護区域の拡張
- 開発リスクのある土地の囲い込み(トラスト的発想)
- 将来の公共目的地確保(防災、交流施設、保育など)
つまり、「村が土地を押さえる=そこでは勝手に開発させない」ための防衛策とも言えるのです。
■ 実例①:釧路湿原 南部での土地買収と保全活動
● 市民団体×地元がタッグを組んだ「買い戻し」
北海道・釧路地域では、2020年代前半からメガソーラー建設が急増しました。
この影響で、釧路湿原の周辺—特に南部の民有地—が開発対象となり、多くの自然環境が失われる懸念が高まりました。
そこで立ち上がったのが、トラストサルン釧路という市民団体。
彼らは市民からの寄付を募り、湿原周辺の土地を“買い戻す”という行動に出たのです。
現在までに:
- 取得件数:59か所
- 面積:約607ヘクタール
という大規模な保全を達成し、開発リスクのあった土地の多くを守りました。
● 自治体との連携も進む
こうした市民の活動を受けて、釧路市や北海道庁も、開発制限や条例強化などの議論に乗り出しています。
行政が土地を買うかどうかはまだ限定的ですが、少なくとも「民間主導の買収に補助金を出す」などの関与が始まっています。
■ 実例②:長野県・諏訪市四賀地区の“共有地”活用の迷い
ここでは「土地を守る」ではなく、逆に「集落が共有地を事業者に貸す」方向で迷った例を紹介します。
- 対象:四賀地区の“集落共有地”(農業用地)
- 提案者:メガソーラー事業者
- 利益:賃料として年数十万〜百万円規模
最初、住民たちは「使っていない土地だし、いい話では?」と考えました。
しかし、景観破壊や火災リスクを懸念する声が強まり、最終的には住民投票で“断念”の決定が下されました。
この事例では土地を「売った・買った」わけではありませんが、
村(集落)が“土地の使い方”に強く関与することで、未来の形を選べたことが重要です。
■ 問題点:なぜそもそも“買われてしまう”のか
なぜ村ではなく、先に事業者に買われてしまうのでしょうか?
● 原因1:所有者が外部にいる
釧路湿原などでは、原野商法でバブル期に全国の人に売られた土地が放置されているケースが多くあります。
こうした土地は:
- 所有者が高齢・不明・相続放棄
- 村に相談されないまま、事業者に売却
といった背景を持ち、「気付いたときには売られていた」という状況になりやすいのです。
● 原因2:村に買う余裕がない
自治体が全ての土地を買えるわけではありません。
- 予算が限られている(災害対策・教育など優先課題多数)
- 私有地を相場以上で買うと「税金の無駄」と批判される
- 維持費・管理人材が不足している
そのため、村が買いたくても“買えない”現実が立ちはだかっています。
■ 実際に「村が買って守った」ケースはあるのか?
● 奈良県・川上村の事例:「水源の村」の覚悟
吉野川源流に位置する奈良県川上村は、全国有数の水源地です。
かつてメガソーラー事業者が山林の購入を進めていたことが報道され、村では大きな波紋が広がりました。
最終的に、村が自ら土地の買取を決定。
理由は明確です:
「水源を守るのは村の責任であり、誰かが買うくらいなら、村が買う。」
この言葉に象徴されるように、地域の未来を他者任せにしない“自治”の精神が土地取得という行動に結びついています。
村が土地を買い戻すことは一時的に大きな出費になるものの、
それ以上の“安全”や“信頼”を得るための投資ともいえるのです。
■ 個人が売った後に「知っていれば」と語る声も
● 奈良県五條市・住民の告白(TBSニュースDIG)
五條市では、県が「防災拠点にする」と説明していた土地が、
いつの間にかメガソーラー建設予定地になっていたという報道がありました。
住民の声はこうです:
「防災拠点と聞いて売った。太陽光になるなんて一言も聞いてなかった。だまされた気分だ。」
このように、「行政からの説明不足」「名目と実態のズレ」が原因で、
土地の売却に後悔の念を抱く人が増えています。
**もし“村が最初に買ってくれていたら”**という想いも滲み出ており、
これは今後の行政と住民の信頼構築に重要な示唆を与える事例です。
■ 法制度や条例の動き:自治体はどこまで止められるか?
● 令和4年の法改正「再エネ特措法」
2022年4月、「再エネ海域利用法」などの改正により、
市町村が再エネ発電事業に対して“立地の同意”を必要とする制度が始まりました。
また、環境配慮計画や地域住民の意見聴取も義務化されています。
とはいえ、所有権が事業者にある場合、完全に止めるのは難しいのが現実です。
そこで、多くの自治体が以下のような対抗策を取り始めました:
- 「土地利用の制限条例」を制定
- 開発許可前に事前説明を義務付け
- 指定区域への再エネ施設設置を規制
● 例:北海道標茶町(しべちゃちょう)
釧路湿原を抱える標茶町では、メガソーラー開発抑制条例が制定され、
一定規模以上の開発を届け出制とし、景観・環境に配慮しない事業を制限しています。
ただし、条例だけでは「土地の取引」は止められないため、
根本的な抑制には“先に村が買う”ことが最も確実な対抗策と認識されています。
■ 考察:村が土地を買う未来とは
● メガソーラーは悪者か?
太陽光発電は脱炭素社会に不可欠な存在です。
本来であれば「自然に優しいエネルギー」のはずが、
その導入方法次第で“自然破壊”になってしまうという皮肉な構図が生まれています。
特に、
- 山を削る
- 森を伐採する
- 湿原を乾燥化させる
といった影響が懸念される中、地元住民の感情は“再エネ=脅威”に傾きがちです。
だからこそ、**地域に根ざした計画と、住民の合意形成、そして「自治体による選択権の保持」**が欠かせません。
● 村が“買う”ことは、対抗ではなく未来の準備
土地取得は単なる「対抗策」ではありません。
それは、「この土地をどう使いたいか」を未来の世代に向けて選び取る行為でもあります。
以下のような活用が期待されます:
- 子育て支援施設や公園、観光拠点への転用
- 地域住民の農業支援や自然学校などの公共的な場づくり
- 市民が管理し、市民が活かす「市民型トラスト」の形成
メガソーラー反対のために土地を買うのではなく、地域の“未来を守る”ために土地を買うという視点が今、求められています。
■ まとめ:あなたの村でも、起こりうること
「村が土地を買うなんて、大げさな話だ」と感じるかもしれません。
けれども、売られた土地に何ができるかを決めるのは、もはや村ではありません。
- 土地の所有=決定権
- 所有していなければ、止められない
- 知らないうちに自然が失われる可能性
これは北海道や長野、奈良だけの話ではなく、**全国の自治体・集落が抱える“静かな緊急事態”**なのです。
もしあなたの地域でも似た動きがあるなら、まずは「どこが所有しているか」「買える可能性はあるか」「活用案があるか」を、村と共に考えてみてください。
未来を選べるのは、今だけです。
