■ 「地下鉄が暑すぎる」札幌市民の悲鳴
北海道に冷房は不要。そんな常識が崩れつつあります。
2025年の夏、札幌市営地下鉄では「暑すぎる」「まるでサウナ」「もう乗りたくない」といった苦情が急増。市に寄せられた声は、わずか2ヶ月で140件以上。なかには高齢者や学生の「体調が悪くなった」「息苦しかった」という深刻な訴えも。
特に影響が大きいのが、札幌市営地下鉄の南北線・東西線・東豊線。
これらはいずれも冷房設備がなく、真夏に密閉状態になる構造で、朝夕のラッシュ時には「移動するサウナ」とも揶揄されています。
■ なぜ冷房がない?──地下鉄特有の“ゴムタイヤ方式”とは
札幌市営地下鉄が冷房を搭載できない最大の理由は、その“足まわり”にあります。
実は、札幌の地下鉄は**全国唯一の「ゴムタイヤ方式」**を採用しているのです。
● ゴムタイヤの利点と制約
- 振動が少なく、静粛性が高い
- 雪国でも路面との摩擦が安定しやすい
- 急勾配やカーブでも運行が可能
という利点がある一方で、
- 車両1両あたりの重量制限が非常に厳しい(約48トン)
- 冷房機器の搭載はこの重量を超える恐れあり
- 放熱の構造上、換気効率が低く、熱がこもりやすい
という制約があります。
つまり、「設計段階から“冷房を付けられない構造”になっていた」ため、単に機械を乗せるだけでは済まないのです。
■ 暑くなったのは“気候のせい”だけじゃない
もちろん、地球温暖化の影響で北海道でも30度を超える真夏日は増えています。
気象庁のデータによると、札幌市では年10日程度の真夏日が、過去20年で2倍以上に増えています。
しかし、それ以上に市民が声をあげているのは、車内の“構造的な暑さ”。
地上の気温が30度でも、地下トンネル内では湿気や空気のこもり方で体感35度以上になるケースも報告されています。
さらに問題なのは、
- 窓がほとんど開けられない構造
- 高架区間でも“トンネル密閉効果”で熱がこもる
- 鉄道会社側も「完全な空調改善は困難」と明言していること
という、対策の限界がすでに見えているという現実です。
■ 実際の利用者の声:「乗るたびに汗だく」「呼吸が浅くなる」
SNSや報道では、以下のような生々しい声が溢れています。
「地下鉄に乗って5分でシャツがびしょ濡れ。仕事前にこれはキツい」
「満員電車の中で誰かが貧血で倒れていた。あれは熱中症に近い」
「“北海道だから涼しい”って旅行で来た友達が、地下鉄で驚いてた」
「もう、通勤に地下鉄は使いたくない…」
これらは一時の不満ではなく、**慢性的な「健康リスク」や「移動避け」**にまでつながり始めている兆候でもあります。
■ 対策はゼロではない。試行錯誤は続いている
札幌市交通局も手をこまねいているわけではありません。実際に以下のような工夫を進めています。
✔ 扇風機の設置
- 各車両に天井型の送風ファンを設置
- 風量は限定的だが「ないよりはマシ」という声も
✔ 窓の開閉試験
- 一部路線で「安全基準内での窓開放」を試験導入
- ただし走行中の騒音や外気の取り込み制限もあり、全線での導入は難しいとの見解
✔ 新車両での軽量化・冷房搭載検討
- 現行車両の老朽化により、2040年前後に新型車両への更新が予定
- その際には、冷房搭載や換気改善が最大の争点に
とはいえ、現行車両の運用期間が長いため、当面の“サウナ状態”は続く可能性が高いのが現実です。
■ 考察:なぜ“我慢”が続いてしまうのか?
ここからは、あえて少し文化的・社会的視点で深掘りしてみましょう。
🔹 1. 「北海道=冷房不要」の文化バイアス
北海道では長らく、「冷房は贅沢」「窓を開ければ涼しい」という感覚が主流でした。
そのため、「冷房導入=コストが高すぎる」とする前提が、いまだ行政や企業側に残っている可能性があります。
しかし、観光客や若年層はすでにその感覚から脱却しつつあるため、バイアスのズレが顕在化してきていると言えるでしょう。
🔹 2. 「苦情を出さない文化」と交通機関への信頼
日本社会では、公共交通への苦情は“なるべく出さずに我慢する”傾向があります。
特に札幌市営地下鉄は「遅延が少ない」「清潔で安全」という評価が高く、多少の不満でも「仕方ない」と感じる層も多い。
ただし近年は、SNSの普及や気候変動の深刻化により、「我慢の限界」を超えた声が可視化されるようになってきました。
🔹 3. 「設計ミス」ではなく“時代のズレ”
札幌地下鉄が開業した1970年代、地球温暖化や冷房需要は想定されていませんでした。
つまり、“当時としては最善”の設計が、現代の暑さと合わなくなってきただけなのです。
問題は、このズレに「どう向き合うか」なのかもしれません。
■ まとめ:「移動するサウナ」に終止符を打つには
これからも、札幌の夏は暑くなります。
そして、地下鉄の“冷房なし構造”もすぐには変わりません。
だからこそ今求められているのは、
- 情報発信と苦情の共有
- 利用者目線での小さな対策の積み重ね
- 中長期での車両刷新・構造改良に向けた意志形成
サウナ状態の地下鉄は、設計のミスではなく、「社会の想定が追いついていない」ことの象徴です。
それを変えるのは、“もっと快適に移動したい”という普通の声かもしれません。
