◆賃上げは進んでも「暮らしやすさ」はまだ感じにくい
2025年7月、厚生労働省が発表した実質賃金が**前年同月比で+0.5%**と、7カ月ぶりにプラスへ転じたことがニュースになりました。
「ようやく賃金が物価に追いつき始めた」という声もあれば、「全然楽になった気がしない」という実感ベースの声も根強く聞かれます。
実際の数字を丁寧に見ていくと、プラスの要因は夏のボーナスによる一時的な押し上げであり、基本給や日常の収入の変化が物価上昇に追いついていない人が多数派だという構図が見えてきます。
◆背景:名目賃金は+4.1%、でも体感なき理由とは?
厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、2025年7月の現金給与総額(名目賃金)は41万9,668円で、前年同月比で+4.1%と大きく伸びています。
一見好調に見えるこの数字ですが、内訳をみると次のようなポイントがあります。
- 賞与(夏のボーナス)が+7.9%と大幅増
- 一方で、定期的な給与(基本給など)は+2.5%程度
- 物価(コアCPI)は+3.6%前後で推移
つまり、日常的に受け取る給与部分は、依然として物価上昇に追いついていないのです。
ボーナスが増えても、毎月の食費・光熱費・家賃がジワジワ上がっていく生活のなかでは、「ちょっと一時的に入っただけ」と感じるのも無理はありません。
◆実感とのギャップ:一部の層が押し上げただけ?
経済全体の統計がプラスであっても、生活実感との間には大きなギャップが存在します。
実際、エコノミストの岡井正人氏はロイターの取材にて、
「今回の実質賃金のプラスはボーナスの一時的な増加によるもので、定常的な賃金上昇が確認できたわけではない」
と述べています。
また、厚生労働省の報告でも「基本給などの“決まって支給する給与”は物価高に追い付いていない」というコメントが出されています。
このように、全体の賃金が伸びていても、実際に恩恵を受けているのは一部の大企業層や賞与支給層であり、中小企業や非正規の人々には波及していない可能性が高いのです。
◆中小企業や地方では「実質マイナス」のまま?
さらに焦点を当てるべきなのは、中小企業や個人事業主層の実態です。
日銀の上田総裁は、「賃上げの波が大企業から中小企業にも広がりつつある」と述べていますが、現場の感触はどうでしょうか?
- 日本労働組合総連合会(Rengō)の2025年春闘データでは、従業員300人未満の企業でも平均+5.09%の賃上げが確認されました。
- しかし、これは「春闘」に参加している一部の企業に限られ、多くの小規模事業者は賃上げ余力がなく、むしろ支出削減に走っているのが現状です。
特に地方の中小企業では「そもそも人件費を上げると倒産する」といった声も多く、統計上のプラスが実感できる場面はごく一部にとどまります。
◆家計の実態:「増えた賃金」が追いつかない支出
消費者の目線で見ると、2024年〜2025年にかけての家計支出の上昇幅は非常に厳しい状況です。
- 食料品全体:+6〜9%(卵・乳製品・パン類などが顕著)
- 電気・ガス料金:2024年の補助金終了で一気に上昇
- 生活サービス(保育料・公共料金等):自治体により変動
一方で、定期給与の伸びは+2.5%前後。
つまり、上がった賃金で補えていない支出のほうが多いという人が多数派です。
とくに、「手取りは変わらないのに出ていくお金が増えてる」という声が多く、一時的なボーナスの増加では“日々の暮らしの厳しさ”を埋められない構造が露呈しています。
◆「景気回復」は誰のものか──感情と数字のズレ
「景気は回復しています」というニュースに、複雑な気持ちを抱く人も多いのではないでしょうか。
実際、SNSやnoteなどでは次のような声が上がっています。
- 「確かに賃上げは報道されてるけど、うちの会社では1円も上がってない」
- 「節約しても生活がきつくて、ボーナスのありがたみを感じる余裕がない」
- 「統計はきっと事実なんだろうけど、自分の生活は改善してない」
こうした声は、景気や賃金に対する**“感情としてのリアリティ”が乏しいことを物語っています。
数字上の回復と生活実感との「非対称性」**こそが、現在の日本経済の特徴の一つかもしれません。
◆考察1:ボーナス増は“回復の兆し”か“ごまかし”か?
今回の賃金増は、ボーナスによる一時的な回復であり、継続的な賃上げの裏付けにはなっていません。
この点について、複数の専門家は「本当の回復かどうかは、基本給が物価を上回るかどうかにかかっている」と指摘しています。
たとえば:
- 夏の賞与が増えても、次の月には平常運転になる
- 日常的に使えるお金(可処分所得)はむしろ減っている
- 人材の流動性や人手不足が一部業界に偏っており、平均値だけが吊り上がる構造
つまり、現時点では「数字上の回復」が先行し、実体経済としての改善はまだ途上というのが現実的な見方です。
◆考察2:「格差としての実感なき景気回復」
今回のような「一部の層が押し上げる賃金上昇」には、次のような構造的問題が潜んでいます。
| 問題 | 内容 |
|---|---|
| ✅ 所得格差 | 大企業・中堅企業 vs 地方・中小企業の収入差が拡大 |
| ✅ 雇用形態の違い | 正社員・フルタイムと、非正規・パート層の賃上げ幅が異なる |
| ✅ 地域格差 | 都市部では求人増・賃上げが進むが、地方では据え置きが多い |
このように、統計上のプラスが実感できない人々が圧倒的に多い社会になりつつあります。
「賃金が上がった」という報道が“遠い世界の話”に聞こえてしまうのは、構造的な偏りがある証拠かもしれません。
◆考察3:消費者としてできる「暮らしの再設計」
実質賃金のプラス転換があっても、今の日本では**「暮らしを守る知恵」がより重要**です。
消費者として、次のような視点での再設計が求められています:
🟢 1. 固定費の見直し
- 電気・ガスの契約プラン変更
- 保険やサブスクの棚卸し
- 家賃交渉や引越し検討
🟢 2. 「収入を増やす」より「出費を減らす」
- 一時的な副業よりも、日常支出の見直しのほうが効果的なことも多い
- 買い物のタイミングや支払い方法(ポイント還元)を意識するだけでも可処分所得に差が出る
🟢 3. 情報のアップデート
- 自治体の補助金制度(子育て・教育・住宅)を活用する
- 給与明細を定期的に確認し、「どこで削られているか」を把握
これらの「地に足ついた対策」が、実感できない景気の中でもじわじわと効いてくる防衛線になるでしょう。
◆補足:8月〜9月の食品スーパーの値上げ例
直近のスーパーや食品売り場では、生活に直結する食品の値上げが相次いでいます。数字で見るとその影響が一層はっきりします。
- 2025年9月:1,422品目が値上げ(帝国データバンク調べ)
└ 前年同月比でも+8品目、9カ月連続で前年を上回る - 2025年8月:975品目が値上げ
└ 特に調味料470品目・乳製品265品目が集中
さらに、具体的な製品別では次のような変化が見られます。
- 醤油・みりん類:+14〜42%(イチビキ)
- 塩:+30〜65円(伯方塩業)
- 鍋スープ・焼肉のたれ:+1〜17%(ダイショー)
- ドレッシング:+約10%(理研ビタミン)
- 香辛料:ブラックペッパー+20円、平均+10.6%(ハウス食品)
つまり、日常的に買う「基本の調味料・乳製品」ほど大きく値上げされているのが実態です。
これらは家計にじわじわ効いてくる項目であり、生活者の「実感なき景気回復」と直結しています。
◆まとめ:数字に惑わされず、「実感」を大切に
2025年7月の実質賃金のプラスは、確かに経済の一つの節目です。
しかし、その内実を掘り下げると、生活の改善が実感できない層が大多数であることが浮き彫りになります。
数字を見ることも大切ですが、それ以上に、「自分の暮らしの感覚」「出ていくお金の感触」「心の余裕」といったリアルな肌感を信じることが、これからの時代においては重要です。
そして、個人の生活者として何ができるかを少しずつ見直していくことが、
「実感できる回復」への一歩につながるかもしれません。
